
「あなぐまさんの読書ブログ」管理人のPantonです。
本日ご紹介する本は、カズオ・イシグロ著『日の名残り』です。
ノーベル文学賞作家の代表作の一つで、イギリスのブッカー賞を受賞した作品をご紹介します。
どんな作品?
1950年代、イギリスの名家に仕えているMr スティーブンスという老執事が、人生を振り返る旅に出るお話。イギリスの美しい景観に癒され、道中に出会う人々との会話を通して、自身のこれまでの歩みを丁寧に回想します。執事という仕事への情熱、雇い主である卿への絶対の信頼、戦争のこと、父との思い出、仕事仲間への淡い恋心。Mr スティーブンスが旅の最後に感じたこととは。。。
著者:カズオ・イシグロ 発行日:1989年5月
こんな方におすすめ!
読んだきっかけ
大学時代のイギリスへの激安短期留学をきっかけにイギリス好きとなり、日本生まれイギリス育ちのカズオ・イシグロさん(ノーベル文学賞作家)に興味を持ち、この本を手にとりました。
Embed from Getty Images感想
この本を読み終えて感じたことは、「イギリスの田舎をゆっくりと車で旅してみたいな~」というほんわかした気持ちと、「変化を恐れてはいけない」というシビアな気持ちの2つでした。
この物語では、ダーリントン・ホールという大きなお屋敷で働く「仕事一筋」のMrスティーブンスという老執事が、雇い主から車を借りてイングランド南西部を旅するのですが、町と町を繋ぐ美しい田園風景や町のシンボルとなる建物、その町に暮らす人々のパブ(飲食店)での会話内容までがとても丁寧に描かれています。Mrスティーブンスが立ち寄る町の名前をGoogleで画像検索しながら読むことでより物語に没入することができました。日本の田園風景も素晴らしいですが、イギリスの風景もお見事です。
Embed from Getty Imagesこの旅には、休暇を楽しむだけでなく、もう一つ重要な目的がありました。
Mrスティーブンスが道中で回想する1920年代から1930年代という時代は、戦争もあり世界情勢が大きく変化した時代。この旅を通して、彼もこの変化を感じることとなります。時代の変化というものは時に残酷で、執事という職業の役割も変化して行きます。Mrスティーブンスが働いているダーリントン・ホールも例外ではなく、時の流れとともに、効率化やマルチタスクが求められ使用人の数がどんどんと減ってゆくのでした。そこでMrスティーブンスは、かつてこのお屋敷で女中頭として一緒に働いていたMsケントンにこの旅路で再会し、もう一度ダーリントン・ホールで働く気がないか確認することにしたのですが。。。
「品格」を備えた偉大な執事になるべく、プライベートも犠牲にして日々努力を重ねてきたMrスティーブンスはこの時代の変化をどう受け止めたのか、そして、もう一つの旅の目的は達成できたのでしょうか。
Embed from Getty ImagesMrスティーブンスについて、序盤は「頑固なおやじだな」という印象が強かったのですが、読み終えるころにはすっかり彼のファンになってしまいました。まじめで不器用(特に恋愛!?)、でもどこかチャーミング。時には自身の記憶を美化したり、嘘をつくことも。。。でも「人間ってこういうところあるよね」と妙に納得してしまう。
*写真はすべてイメージです。
まとめ
私がこの本を初めて読んだのは20代後半だったかと思います。当時は、Mrスティーブンスがひたすら「私は正しいことをしてきた」と自分に言い聞かせている印象が強く残り、読み終えた後もこの物語の本質が見えませんでした。そして、何かの拍子に10年ぶりくらいにこの本を手に取った時、なぜか全く違った印象を受けました。その後も何度かこの本を読み、その都度、新たな視点で物語を読むことができました。
この本は、定期的に読むことで「長いようで短い人生をどう過ごしてゆくか」を改めて考えるきっかけを与えてくれます。人生で大きな分岐点にさしかかっている方や普段の生活に変化が欲しいと感じている方は、是非、Mrスティーブンスと一緒に今までの人生を振り返ってみてください。
それでは今回はこのへんで、「あなぐまさんの読書ブログ」をお読みいただきありがとうございました。